「ストレス」とは・・・
ストレス(反応)とストレッサー
まずは、言葉の整理から始めましょう。ストレスとは「生体に有害作用を及ぼす刺激に対する、生体の非特異的な反応」と定義されます。つまり、生体に生じる反応あるいは状態がストレスなのであって、その状態をもたらす刺激はストレスではなくストレッサーといいます。日常的にはこれらが区別なく用いられていますが、厳密には高圧的な上司や満員電車などは、ストレスではなくストレッサーと呼ばれるべきものです。
ストレスの始まり
ストレスは、有害刺激(ストレッサー)によって生体に生じる反応と述べましたが、生体にとって”有害”刺激とは何を指すのでしょうか。野生動物を考えてみると、命の危険が伴う捕食者の存在などが想像されます。けれども、私たちの社会生活では、命の危険が伴う場面からはかなりの程度、保護されています。そのため、日常での生体における有害刺激とは、身体的な危険よりも心理社会的なものが多くを占めていると考えられます。この心理社会的なストレッサーは、全てに対して等しく有害というわけではなく、それを受け取る固体によって影響の仕方が異なります。
個体による刺激の受け取り方
眠っている時に、物音がしたような気がして目が覚めたとしましょう。すると、「本当に物音がしたのか?・・・もしかして部屋に誰かがいる!?・・・いや、そんなはずはない・・・でも確かに物音が・・」などと考え始めてしまうことがあるでしょう。思い悩んでいるこのわずかな時間に、生体のストレス反応は始まります。もし個人がその物音で目を覚まさなければ、あるいは家族の誰かが冷蔵庫でも開けたのだろう、と悩むことがなければ、つまり個人が危機を認識しなければストレス反応は始まらないのです。
ストレスとライフイベント
心理社会的ストレッサーは、個人の受け取り方によってその影響が異なります。言い換えれば、日常のどのような出来事でも、ストレスの要因となりうるということです。下表に様々なライフイベントをストレッサーとしての強度としてあらわしています。個人によって影響が異なるのはもちろんのこと、時代背景も異なるため数値はあまり信頼できません。しかし、日常のあらゆる出来事がストレッサーになりうることの参考にはできるでしょう。
ライフイベントとストレッサーの強度
順位
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日常の出来事
|
強度
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順位
|
日常の出来事
|
強度
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1
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配偶者の死
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100
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22
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仕事の地位の変化
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29
|
2
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離婚
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73
|
23
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子女の結婚
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29
|
3
|
夫婦別居
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65
|
24
|
親戚関係でのトラブル
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29
|
4
|
刑務所への収監
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63
|
25
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個人的な成功
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28
|
5
|
近親者の死亡
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63
|
26
|
配偶者の就職・退職
|
26
|
6
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本人の大きなけがや病気
|
53
|
27
|
進学・卒業
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26
|
7
|
結婚
|
50
|
28
|
生活環境の変化
|
25
|
8
|
失業
|
47
|
29
|
個人的習慣の変更
|
24
|
9
|
夫婦の和解
|
45
|
30
|
上司とのトラブル
|
23
|
10
|
退職・引退
|
45
|
31
|
労働時間や労働条件の変化
|
20
|
11
|
家族の健康の変化
|
44
|
32
|
転居
|
20
|
12
|
妊娠
|
40
|
33
|
転校
|
20
|
13
|
性生活の困難
|
39
|
34
|
レクリエーションの変化
|
19
|
14
|
新しい家族メンバーの加入
|
39
|
35
|
社会活動の変化
|
19
|
15
|
仕事上の変化
|
39
|
36
|
宗教活動の変化
|
18
|
16
|
家系上の変化
|
38
|
37
|
一万ドル以下の借金
|
17
|
17
|
親友の死
|
37
|
38
|
睡眠習慣の変化
|
16
|
18
|
配置転換・転勤
|
36
|
39
|
家族の数の変化
|
15
|
19
|
夫婦ゲンカの回数の変化
|
35
|
40
|
食習慣の変化
|
15
|
20
|
一万ドル以上の借金
|
31
|
41
|
長期休暇
|
13
|
21
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借金やローンの抵当流れ
|
30
|
42
|
クリスマス
|
12
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この表で注目すべきことは、一般的にストレスとは無関係だと考えられている”幸福な”出来事もストレッサーとして挙げられていることです。つまり、歓迎すべき出来事であっても、(有害とは言わないまでも)生体への負荷という意味では、ストレッサーになりうるわけです。